2.5舞台がやってくる

※ありとあらゆる方面をあんまり褒めてません
※ネタバレ配慮とかしてません


見ましたよ。桃源郷ラビリンス。
地元でやるって言われて、キャストもスタッフも制作も知ってる名前が多くて、地元なら虚無掴まされても普段東京まで行く交通費が約3万円であることを考えると実質無料みたいなもんじゃん、って思ったんです。
結果として皆さんご存知の通り虚無だったんですけど、地元民としての視点から東京で見る虚無以上に脱力というかガッカリしたよ、という話がしたいエントリーです。



虚無虚無言う前によかったところも言いますね。
キャストのお芝居はよかった。カフェのシーンはアドリブも織り交ぜた軽快な掛け合いで笑っちゃったし、クライマックスのいいこと言うシーンもここがキメのシーンです!クライマックスです!という気迫は伝わってきた。あんなポンコツ脚本なのに(脚本については後述します)
あとアクションもよかった。鳥ちゃんの抜刀したと思ったら敵を切り捨てている素早い殺陣とか、武器が同じ刀でも構え方とかのスタイルが違うから戦い方も区別がついているところとか、ヒーローショー張りに回転して吹っ飛ばされる温羅とかもうちょっと見たかった。


でも、脚本が何言いたいのか全然わかんないんですよ。

もう褒めるパート終わっちゃった。

原作や物販の台本とかも読んでなくて、2公演見ただけなので正確じゃないということだけはお断りして本編の話をします。


主人公の桃太郎は昔話の桃太郎の転生者で、親友が敵である温羅(昔話の鬼)の転生者な上に温羅たちの王で敵対する立場なのでふたりは戦います。
「戦うことしかできないのか!」と問う桃太郎に親友は「そうなるようにしたのは人間の方だろう!」と言って斬り合いは続くんですけど、桃太郎は「身勝手な人間だけど、人と温羅は共存したいと思っている!するべきだと思っている!」とか言い出します。
これは途中で挟まったふたりの前世回想シーンの焼き直しなんですけど、今世の桃太郎が共存を望むような素振りを見せたことはなく(むしろ銀行強盗が温羅かもしれないという疑惑の段階で速攻で殴り飛ばした)クライマックスに来て初めて桃太郎がそんなこと考えてたのを観客は知るわけですけど、ひとまずふたりは和解します。
しかしそのあと、ふたりが戦う原因になった温羅・酒呑童子に対しては「お前を許すことはできない」と刀を向けます。短期間で言ってることが変わりすぎてる。共存しろよ。


そういうお話として根本的に矛盾して成り立っていない雰囲気脚本であることに憤っているツイートとか感想ブログもいくつか見ましたし、運営アンケートにも書いた方は多いだろうからこの点に関してはこれくらいにしておきます。
以下「岡山を聖地化することで地域振興のきっかけにする、岡山を舞台に全国へ発信していく作品」としての「桃源郷ラビリンス」の脚本に文句を言います。


ざっくりとした話の流れの一部としてこういう展開があります。

主人公の桃太郎は「桃太郎」という名前のせいで子どもの頃散々馬鹿にされてきていた

じいさんからお前は桃太郎の転生者なんじゃ!特別な力で岡山を守るんじゃ!と言われる

よっしゃ俺にしかできんことやったるで!と思う桃太郎のもとに全国からピンチを聞きつけた昔話のつわものの転生者がやってくる

桃太郎「みんな来てくれるのは頼もしいけど、俺がやるぞ!って思ってたから拍子抜けなんだよな~~~」



嘘でしょ、お前、この舞台の成り立ち全部否定したやんけ…。

この舞台、岡山の若手経営者が地域振興として立ち上げたベンチャーの企画が軸になっているんですよね。
岡山の人が地域振興のために舞台やるぞ!って東京で話題の役者さんたちを起用して、東京で実績のある制作会社に協力を仰いで、東京公演して知名度上げて、岡山に凱旋して公演をしたんですよ。
要するに作中の桃太郎と同じような状況なはずなんですけど、桃太郎は助っ人に来てくれた浦島太郎の転生者に面と向かってお前らが来たから拍子抜けって言います。
岡山に金太郎の転生者がいるのと、敵が酒呑童子だったのでそのつながりで頼光四天王の転生者も来てくれるんですけど桃太郎がはっきりみんなで力を合わせてがんばるぞい!って言ってるシーンも確かなかったんですよね。

地域振興したいって言ったわりに、あんまりにも県外から来てる人に無礼じゃないですか?というのが本エントリーで一番言いたい文句です。


その上、岡山の魅力を発信とか言うけどあの舞台でどれくらいわかりました!?
OPの謎ダンスが「うらじゃ」っていうよその地域で例えるならよさこいとかソーラン節みたいな踊りのオマージュだっていうことも、桃太郎が閉店後の桃源郷カフェで取り出したのが独歩(岡山の地ビール)っていうことも、作中で出てくる具体的な地名も県外の人にどれくらい伝わったのか全然わからないし、実際県外から来たフォロワーと話をしていると全く伝わっていないみたいでした。県内の人でも県北の方だと知らない人多いんじゃないかなとも思います。
「聖地化」とか掲げるくらいだから「じゃあ実際歩いて観光してもらえばいいじゃない」って運営は考えているのかもしれないけど、今回土日2公演ずつだったから推しを追いかけて岡山くんだりまで来て全公演見てくれるような所謂ガッツと呼ばれる人たちはまともな観光する暇すらなかったはずです。


舞台の内容はめちゃくちゃ、せっかく来たのに観光もままならない。そんな状況では一番のターゲットとしていたはずの県外から来てくれた人が、何もいいところが見つからないまま「作品の面でも集客の面でもキャストの力に頼り切って楽にお金を稼ぎたいだけのクソ舞台なんじゃないの…?」って結論を出しても仕方がない。

それだけならまだよくて、「大人の都合丸出しのつまらない舞台に推しが人質に取られてしまった、岡山なんて嫌いだ」って県外から来てくれた人に憎まれても仕方がないんだけど、それって作品のコンセプトとしては収入的にコケることより一番あってはならない大失敗なんですよね。岡山の魅力を発信どころか嫌われてるんだから。


カフェは期間限定店舗じゃないらしいし、これから映画もあるのでまだまだ展開の余地があるコンテンツです!みたいに謳ってますけど、「岡山」の名前と地域振興とかいう大義名分を使って雑な金稼ぎがしたいだけなら今すぐやめちまえと思いますね。
普段東京に会いに行くはずの俳優さんやフォロワーが地元に来てくれるのは嬉しいけどこんな心苦しい思いをするならこっちが東京に行く方がずっといい。


県外から観光に来た人をカモとしか思っていないという論旨ですけど、もし、「結果として県外からのお客さんが来ただけで、本当は岡山県民に愛されるローカル舞台にしたかったんだよ」と言うならば、東京で話題の役者を起用せずに、岡山ローカルで活動している役者を起用すれば、東京公演なんかせずに岡山公演のみにすればよかった。

でもそしたら今よりずっとサムいお遊戯会になってただろうと思いますし、岡山を世界に発信の企業理念はどこ行った。



あと今回、普段東京で見ているような舞台が地元に来てもうひとつがっかりしたのは結局岡山も田舎なんだなあ~って思い知らされたことですね。

千秋楽、スタオベがあったんですよ。こんなガタガタ舞台なのに。キャスト苦笑いしてた。


これは東京でやってる「虚無舞台」と呼ばれる作品も同じですけど、ファンは雑な作りでつまらない作品でも推しが出るから行かなきゃいけない→つまらなくてもチケットは売れるから改善されないの負のループがあるんですよね。
最近の東京だと何本も2.5次元ジャンルの舞台をやっていて選択肢が増えたので、本当につまらないものはキャストの固定ファンでも行かないという話を聞きます。


一方で岡山をはじめとする地方では競合がない上に地元で舞台をすること自体がレアなので近所に住んでたら行きますよね。最初に書いた通り私がそうです。
観劇体験が少なくて面白いか面白くないかの判断すらまだつかないので、都会では皆がするというスタオベなるものをしてみようとしてしたのか単純にサクラが仕込まれていた結果なのか知らないですけど、そういうところを東京で雑に金稼ぎすることに限界を感じた大人に付け込まれてカモにされたとかなら今の何倍以上も悲しい。

もちろんスタオベしてキャストに感謝を伝えたい!っていう気持ちは否定しませんけど、スタオベってそう簡単に起こらないからTwitterのレポに上がるんだよ。

まあでもしましたけどね…岡山まで来てマチソワ4公演してくれてありがとうの意を込めて…自意識のないオタクなので…。




以上、制作委員会として名を連ねていない団体や自治体やもしかしたら議員の方もたくさん作品にお金を出していると思うんですけど、皆さんが大金つぎ込んで岡山から世界に発信したいメッセージはそれでいいんですか?という話でした。


それはそれとしてオタクの皆様におかれましては岡山自体はごはんおいしいしインスタ映えスポットはたくさんあるし天候も安定しているし有名どころ観光地と比べたらそこまで混雑もしていないのでこれに愛想つかさずにまた遊びに来てくれるとうれしいな!





参考:株式会社桃源郷桃源郷カフェの運営) http://tougen-kyo.com/

(エントリー全部書いてからよく見たらどこにも岡山の“いいところ”を発信したいとは書いてなかったので、一連のプロジェクトが岡山に対する悪い印象を拡散するためのものだったらこのエントリーは最後の「私は岡山いいところだと思ってるから観光に来てね!」の段落以外すべて無に帰します)